11.メインフレームのオペレーティング・システム

By 神居 - Posted: 2008/08/26 Last updated: 2009/10/05 - 2 Comments

「メインフレーム入門」の最後にOSについて紹介します。IBM,富士通および日立のメインフレーム・コンピュータに関してです。ここに述べたもの以外にもNECのACOS『ウィキペディア(Wikipedia)』など他にもあります。上っ面だけさらっと紹介しただけなので、興味のある方はメーカーのページや、ウィキペディアなどを見てみてください。MVS(MSP,VOS3を含む)に関しては別のカテゴリーで詳細に触れたいと思います。


MVS(OS390,z/OS)

言わずと知れたメインフレーム・コンピュータの代表的オペレーティング・システム。世界的に見れば、IBM社のハードウェア+MVSの組み合わせが事実上のデファクトスタンダードでしょう。仮想記憶によるフラットなメモリー空間、多重アドレス空間(メモリー空間)、マルチタスキングが採用されており、UnixやWindowsなどでも標準的に採用されているメモリー制御、タスク制御方式の原型でもあります。
対応するハードウェアであるシステム370ではCPUは32ビットでしたが、当初のMVSでは24ビットアドレッシングが採用され、メモリー空間は16MBの大きさを持ちました。それでも当時(1970年代)は十分な大きさでした。もちろん実記憶装置であるメモリーはもっと小さな大きさが一般的で、今となっては過去のものになったMS-DOSやWindows3.1を動かす程度のメモリーで、企業の基幹業務システムを担っていたのです。
やがてオンラインシステムが一般的になり、処理しなければならないトランザクション量が増えるにつれ、16MBの仮想メモリーでは十分とは言えなくなり、MVS/XAで31ビットアドレッシングが採用され、仮想メモリーは2GBへ拡張されました。さらにMVS/ESAでデータ専用のメモリー空間など水平方向への拡張も行われ、約10年毎のサイクルでMVS自身は大きく変革してきました。
現在ではCPUもメモリーも64ビットアドレッシングに拡張され名称もz/OSと変わりましたが、OSの基本部分に関しては「MVS」として実装されています。ハードウェアやOSがどんなに拡張されてきても、初期のMVSで動作していたプログラムが何の変更もなく、そのまま動くレベルの互換性を維持しているのがMVSを含めたIBM製メインフレームOSの大きな特長で、故に現在でも多くの企業が膨大な基幹業務のソフトウェア資産をメインフレームで利用できているのです。実メモリーも今ではGB単位で実装されていますが、ハイグレードなPC並みの大きさで膨大な量のトランザクションを制御する能力と機能を持ちます。z/OS『ウィキペディア(Wikipedia)』


VSE

MVSと並ぶ同じIBM社のメインフレーム・オペレーティング・システム。一般的には比較的大規模なシステムでMVS、VSEは小中規模なシステムで採用されるとされる。個人的にはこれは現在のハードウェアで区別する規準ではなく、初期のメインフレーム・システムであるS/360、S/370当時のハードウェア・ランクによって結果として選択されたものと思っている。確かにVSEはMVSに比べると動作は軽い。当時ハードウェアの値段は非常に高価で、企業によってはそれこそ社運を掛けるほどの価格であった。よって規模の小さい企業では低グレードのCPUを導入したので、結果としてOSにVSEを利用したのであろう。最初にVSEでシステムを構築した企業がその後成長し、システム規模が大きくなっても引き続きVSEを利用している例は少なくない。なので現在ではVSEだから必ずしも小さいシステムとは限らない。もっともVSEの利用数は日本では比較的少数と感じている。正確な数は知らないが、汎用機のパッケージ製品に長年携わった経験からそう思う。
VSEはプログラムを実行する仮想メモリースペースやジョブの管理など、MVSとは異なる方法で制御を行っていて、ジョブ制御もJES2ではなくPOWERと呼ばれる独自のものが使われる。JCLも異なるし、コンソールも含めOSの操作に関してはMVSと互換はない。なおVSEにはMVSのTSOと同等のものはなく、VSE単品でなくCICSと組み合わせて使うのが基本となる。z/VSE『ウィキペディア(Wikipedia)』


TPF

TPFはTransaction Processing Facilityの略。その名の通り、トランザクション処理に特化したIBM社のメインフレーム・オペレーティング・システム。1960年代に米国の航空会社向けに開発されたACP(Airline Control Program)の後継。ACPは基本的にエアライン向けシステムであるが、それをトランザクション処理(オンライン・リアルタイム)システムに特化したOSとして登場した。金融機関などでも大規模なトランザクション処理システムをMVSとIMSなどで構築しているが、TPFはそれをはるかにしのぐ機能・性能を持っている。日本ではJALやJTBなどで利用されている(いた?)と記憶している。
MVSのようにオールマイティな機能を持っていないことや、アプリケーションもアセンブラー言語での開発が基本だった(とにかく性能を追求したシステムなので)ので、米国を除けばレアーな存在と思われる。個人的には非常に興味深かったが、仕事として携わる機会はなかった。Transaction Processing Facility『ウィキペディア(Wikipedia)』


VM

IBM社の仮想計算機プログラム。今日大流行りの「仮想化技術」の原点とも言える。VMの名称もVirtual Machineの頭文字。1970年代後半から80年代前半には、1つのハードウェア・システム(CPU、チャネル、DASDなど)で複数のOSを稼働させる目的でよく使われた。お金のある企業はOS毎にCPUを並べたが、そうでない企業ではVMによってソフト的にハードを分割(仮想化)して複数のOS(本番業務用、テスト用など)を運用できた。その後ハードウェアそのものでハードウェア資源を分割するPR/SMに替わられて行くが、現在でもz/VMとして進化している。
VMは基本的にCPとCMSに分かれ、CPが仮想計算機そのものを実現する機能、CMSは仮想計算機内でのユーザー利用環境を提供する機能となる。1つのCMSは1人のユーザーで専有され、主に対話型のシステムを必要な人数分同時に利用させることができる。簡単に言えば1台のメインフレームの中に個人個人が使う仮想のパソコンを何百何千と動かすようなイメージ。今のようにインターネットなどない時代に、企業内の情報検索システムやメーリングシステムなどを構築する際にも利用された。複数のMVSなどを動かすCP主体の使い方でも、ゲストOSのリソース定義などを行うためにCMSは使われることになる。
歴史も古くS/360が登場した頃からVMの前身であるCP-67がすでに登場していた。富士通と日立でも同様のプログラムはあり、それぞれAVM、VMSと呼ばれている。ただしCMSに相当する機能はなくVM/CPと同等である。z/VM『ウィキペディア(Wikipedia)』


Linux

いわゆるLinuxでUNIX互換のOS。System zで動作するのがLinux on IBM System zと呼ばれるもの。(通称z/Linux)詳細に関しては割愛しますが、OS/390から提供されたOE(Open Edition)やUSS(Unix System Service)のようにMVSの中に仮想のUNIX環境を作るものではなく、メインフレームCPUの上でLinuxを直接走らせるものです。今ではWebSphereなどでz/OS上でもWebアプリケーション・サーバーを実現できますが、すでに動いている既存のWebシステムなどをOS毎持ってきてしまえ、と言うことすらできるわけですね。これによってメインフレームはハードウェアは残るが、MVSを始めとする従来のレガシーOSと言われるものがなくなるのでしょうか?それともMVSはMVSで使い続けられ王座は揺るがない、となるのでしょうか?興味深いものです。20年後には答えが出るでしょう。


MSP

富士通のメインフレーム・オペレーティング・システム。IBMのMVSとの互換OSとして1970年代に開発され今日に至る。富士通は日立製作所と協同して当時のIBM社のシステム/370互換アーキテクチャを持つメインフレーム・コンピュータであるMシリーズを開発し、OSについても互換性を持つOSIV/F4(後にOSIV/F4 MSPとなる)を開発した。機能面でも操作面でもコマンドなどの一部のインプリを除けば、当時のMVSとほぼ同じであった。
ジョブ管理機能を補完するジョブエントリーサブシステムはJES2互換のJES、JES3互換のJES/Eがあったが、後にJES/Eは廃止された。OSだけでなくネットワーク機能であるVTAMに関しても、APIレベルで互換を持ち、MVSとMSPをネットワークで相互に接続することができるほどであった。これはネットワーク・プロトコルであるSNAに関しても互換のあるFNAと言うプロトコルを開発していたためでもある。(現在のVTAMでは単純な相互接続ができる互換性はない)
MVSがXAになり31ビットアドレッシングと動的チャネルサブシステムを採用した際は、31ビットアドレッシングに関しては外部仕様の1部に非互換があったものの、AEオプションとして追従された。さらにMVSがESA(MVS/SPバージョン3)になった後は、MSPも名称からF4がなくなりOSIV/MSP(通称MSP/EX)としてエンハンスされた。MSP/EXでは動的チャネルサブシステム、データ専用空間もサポートされ、31ビットアドレッシングにおける外部仕様もMVSと同様になった。
OSの基本機能とVTAMによるネットワーク・プログラミングAPIに関してはMVSとMSPは互換性を持ち、両OSとも当時から踏襲されているコンポーネントに関しては現在でも互換を維持している。もっとも両OSは現在でも基本部分は変えていないから、互換性も結果として維持されている、と言うことになる。OS/390以降に実装されたMVSの各種機能に関しては追従していないか、しても互換を前提ではなく独自のやり方での実装となっている。一例を上げればTCP/IP通信機能がそれにあたる。TCP/IPはプロトコルとして共通しているし、TELNETやFTPなどは機能がRFCなどで決まっているため、その意味では同じであるし、相互にシステムを繋ぐこともできる。しかしプログラミング用のAPIなどはVTAMと異なり、全く違う形で実装されており互換性はない。
現在ではMSPはOSとしての基本部分はMVS互換ではあるものの、1990年代後半以降に追加された新しい機能に関しては互換ではなく同等なもの、対抗するもの、として提供されるようになった。ただしz/OSに実装されている64ビット仮想記憶には対応していない。


VOS3

日立製作所のメインフレーム・オペレーティング・システム。IBMのMVSとの互換OSとして1970年代に開発され今日に至る。歴史的な経緯は富士通のMSPと同じである。ハードウェアに関しては当初富士通同様Mシリーズとして発売された。OSに関しては日立ではVOS3の名称で提供され、MVS互換のOSがVOS3(後にVOS3/SPとなる)である。ネットワークも富士通のFNAに対しHNAとしてSNA互換のものを採用し、VTAMについても同様であった。OSやネットワークの互換のレベルもMSPと同様である。ジョブエントリーサブシステムはJES2互換のJSS3、JES3互換のJSS4がある。
MVS/XA追従に関しては、31ビットアドレッシングのみに対応したM/EAアーキテクチャ、動的チャネルサブシステムもサポートしたM/EXアーキテクチャがあり、OSはVOS3/ES1となった。MVS/ESAレベルでの互換はM/ASAアーキテクチャ、VOS3/ASで行われた。
1990年代後半以降の新たな機能に関しては富士通のMSPと同様、同等なもの、対抗するもの、として提供されるようになった。特にネットワークに関してはVTAMの後継であるXNFが標準となり、プログラミングに関してはAPIもプロトコルも互換性がなくなった。TCP/IPに関してはプロトコルを除き、APIに関してはMSP同様互換はなくやはり独自の形式で実装されている。また現在の日立製メインフレームはM/64アーキテクチャとして64ビットに拡張されているが、仮想記憶に関しては従来の31ビットアドレッシング方式が採用されている。VOS3『ウィキペディア(Wikipedia)』

MSPもVOS3も互換を持っているのはOSおよびVTAMの基本部分であって、CICS、IMSやDB2と言ったトランザクション処理システムを構築するためのミドルウェアと呼ばれるソフトウェアに関しては当初から互換はない。メインフレームでよく利用される開発言語であるCOBOLも言語としては共通だが、コンパイルされたオブジェクトプログラムは、それぞれのOSに依存する機能を使用するモジュール群が展開されてしまうため実行プログラムとしての互換性は基本的にない、と考えた方がよい。それでもどれか1つのOSを知っていれば、それぞれのOSを利用するための知識の習得は比較的容易で、基礎知識はそのまま生かせることは現在でも変わりない。


XSP

富士通のメインフレーム・オペレーティング・システムである。MSPがMVS互換であるのに対しXSPは独自のものであってVSE互換のOSではない。元はMSPの前身であるOSIV/F4 MSPの1ランク下の規模に位置するOSIV/X8 FSPである。さらに小規模システム用にESPと呼ばれるOSもあったが、これを統合してX8 FSPをベースにXSPとなった。タスク管理にはMSPと共通点も多いが、ジョブ管理が全く異なるため、ジョブとシステムの操作に関しては見た目も含め互換性はない。JCLも同様である。コンソールはライトペンを使用することを前提にしたユニークなユーザーインタフェースを持っている。データ管理はデータセットの編成方式やアクセス法(API)は互換があるが、DASDボリューム内の構造や、区分データセットの内部構造などは異なる。対話処理はTSS互換のAIF、操作もほぼ同じのPFD、ネットワークはVTAMとTISP、トランザクション処理とDBはAIMでMSPと同じである。
OS内部の機能に依存する制御系のシステム・ソフトウェアは簡単ではないが、一般のユーザープログラムに関してはMSPとXSP間では可搬性(移植性)は比較的高い。IBM社のVSE同様に現在では単にシステムの規模で使い分けられることはなく、大規模なシステムでもXSPを利用しているユーザーは多い。OSそのものの仕様は似ていないが、位置づけや役割などの点で見ればXSPはVSEに相当するものとも言える。利用ユーザー数で言えば日本国内に限るが、圧倒的にVSEより多いと思われる。


VOS1

日立製作所のメインフレーム・オペレーティング・システムである。VOS3がMVS互換であるのに対しVOS1は独自のものであって富士通のXSP同様VSE互換のOSではない。中型機用OSとして発展し、現在ではVOS1/LSとして提供されている。位置づけとしては富士通のXSPと同じような立場にあるOSだが、ユーザー数の比率をMSP対XSPと比較すれば、VOS1はVOS3のユーザー数に比べればかなり少ないのかな、と個人的には思う。使ったことはおろか見たこともないのでこれ以上書けません。

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2 Responses to “11.メインフレームのオペレーティング・システム”

Comment from okada
Time 2013年7月28日 at 02:13

IBMにおけるPR/SM(Processor Resource/Systems Manager)は、日立ではPRMF(ぷろせっさ論理資源分割管理機構)になります。
VMのように一つのマシンに複数のOS(LPAR)を起動させる方式で、それぞれのOSが独立した動作が可能になります。

しかし、一つの物理CPUから見ると、IO機器の共用が出来たり、OS間の通信経路がチャネル1本で済むなどメリットが多く、殆どのサイトで導入されています。

現在では実計算機=ベアマシン(1つのCPUを1つのOSで動かす)が極端に減ってしまったというのが私の印象です

Comment from okada
Time 2013年7月30日 at 01:27

VOS1について補足を、、

VOS1は中小型計算機のOSとして位置づけられていて、OSやそのたのプロダクト体系はVOS3と似ています。

しかし、VOS1はクローズドバッチを前提としてコンセプトのため、セキュリティに関するプロダクトが準備されていません

いまでは、新規でVOS1ユーザになるサイトは殆どなく、次世代OSであるVOS/Kに取って代わっています。

VOS/Kについては別途ご説明いたします