現代の「メインフレームコンピュータ」を支えるエミュレータ(3)「磁気テープ(ライブラリ)エミュレータ」

By 岡田 - Posted: 2016/09/04 Last updated: 2020/07/02 - Leave a Comment
第三回目は「磁気テープ(ライブラリ)」のエミュレータです

メインフレームコンピュータと磁気テープの深い歴史

コンピュータとしてメインフレームシステム産声を上げたと同時に磁気テープはともに発展してきました。

wikiによると、磁気テープは第二次世界大戦のドイツで実用化されていた技術を戦後アメリカが持ち帰り、メインフレームコンピュータのデータ保管向けに進化させたものです

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上の図は、磁気テープが外部保管媒体としてメインフレームコンピュータシステムを支え始めてから、磁気テープライブラリ装置が1990年初頭に登場するまでのテープ操作イメージです。テープのマウント要求がコンソール装置若しくはテープ制御装置のパネルに表示されると、コンピュータ室に出入りできるオペレータがテープ保管庫から要求されているテープ(オープンリール、カートリッジ型など)を駆動装置にマウントします

テープ操作にはこの時、以下の問題を常に抱えていました
・テープの要求からマウントまで秒から分単位の待ち時間が発生する事
・オペレータが不在の時間帯はテープ要求ができない(時間的制約)事

そこで登場したのが磁気テープを装置内に図書館のように整然と保管した「磁気テープライブラリ装置」です

磁気テープライブラリ装置の登場により仮想テープの概念が見えてきた

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磁気テープライブラリ装置は日立の場合、1991年に磁気テープライブラリ装置としてH-6951が登場し、以後H-6952と進化しました

磁気テープライブラリ装置を用いる場合、常駐ラン(リージョン)として制御プログラムが必要です。オペレータの代わりをさせるためです
日立の場合、磁気テープライブラリ装置を制御するプログラムとして「DMFLSS」がそれに該当します。

磁気テープライブラリ装置制御プログラムの仕事は次のとおりです。
1)磁気テープライブラリ装置に格納の際、登録したラベル情報(管理情報)とOS(データ管理)から要求されたマウント要求を比較し、管理情報に登録されている保管媒体への要求であれば、テープ装置に対して指示を出す
2)保管媒体の入庫(ENTRY)、出庫(EXIT)で発生するラベル情報をもとに管理情報を変更する
3)磁気テープライブラリ装置が停電等で障害となったときのメンテナンス機能

磁気テープライブラリ装置(右下のハード装置)が行う主な作業としては以下3点があります
A)テープが保管されている保管領域から要求が発生したテープをアームロボットが抜き取り、左側の駆動装置にマウントする
B)駆動装置から出てるテープをアームロボットが受け取り、再び保管領域の元の場所に戻す
c)駆動装置の稼働時間を累積しており、定期的に保守領域にあるクリーニングテープをマウントする

当時、テープに保管される媒体はCT400を主体とする”カートリッジ型磁気テープ”でしたが、このテープを装置内に4000巻から6000巻保管すると、装置自体巨大化すると同時にアームロボットの走行距離も長くなるため、ハードウェアのメンテナンスがとてもシビアで難しい装置となりました。

磁気テープライブラリ装置によるメリットは以下のものがあげられます
1)マウントにかかる時間が秒から1,2分オーダーと極端に短くなった
2)オペレータが不在の時間帯でもライブラリ装置に入庫しておけば、いつでもテープ処理が可能になった

しかし、磁気テープライブラリ装置の導入・維持管理に以下の制約が必要になりました
A)装置に対して、免震対策が必須だった点
B)装置内を走行するアームロボットが頼りにする”ガイドレール”に凸凹がない(特に繋ぎ目)点

さらに、BCP(事業継続計画)を考慮した時、保管領域のテープデータを外部に持ち出すには膨大な時間が必要であることから、磁気テープライブラリ装置自体が時代に合わなくなってしまいました

そこで仮想テープという技術が必要になりました

仮想テープ(ライブラリ装置)の概念

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仮想テープ(ライブラリ装置)は、磁気テープライブラリ装置をそのままエミュレーションしたものです。
日立では仮想テープライブラリ装置を制御するプログラムとして「DMFVTLS」がそれに該当します。
(DMFVTLSのVTはVIRTUAL TAPEの略です。そのため、仮想テープは単にVTと呼ばれる場合もあります)

磁気テープライブラリ装置の中にあった保管領域のテープ情報を媒体情報を保管する専用ディスクに格納します

仮想テープライブラリ制御プログラムは、磁気テープライブラリ制御プログラム同様、常駐ラン(リージョン)として稼動し、管理情報内のラベル情報とOS(データ管理)からの要求を比較し、仮想テープに保管しているテープに対する要求であれば、媒体情報を保管している専用ディスクから情報を読み出し、テープのIOを行います

仮想テープ(ライブラリ装置)のメリットとして、、
1)媒体のデータを保管する専用ディスクに移すことで、今までマウントにかかっていた時間がほぼ無くなります。JCL、プログラムを殆ど変更しなくてもターンアラウンドタイムが短くなるという点も挙げられます。
2)磁気テープライブラリの導入には(設置スペースやコスト面など)ハードルが高かったが、仮想テープはハードルが低いため、導入しやすい。また、磁気テープライブラリ装置では駆動装置もハードウェアのため、テープIOの多重度に制約が生じます。仮想テープ(ライブラリ)で使う仮想用の駆動装置はハードウェアではなく、ソフト的にOSに見せているため(IO装置ゼネレーションをする事で)増やす事が可能です。結果テープIOの多重度を高める事ができます。
3)専用ディスクにデータを保管しているため、当該ディスクをリモートコピー(外部転送)する事でBCPへの対応が容易になります


次回はコンソールのエミュレータ(コンソールデバイスサーバ)について説明します
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